その日は仕事が終わらず夜遅くまで残っていた。
は礼部侍郎と言う名の礼部の中では雑用係なのでしょっちゅう泊まりこみだ。
礼部の人間はを良くは思っていないので礼部として公の場に出る時は大抵じゃない侍郎がでるので
礼部以外の人間には礼部侍郎と認識されていないがよく書簡を持ってくる人と思われている。
の身分は高いのに認識はほとんどされていない。高官の人達と礼部の人間と取次ぎをする下官ぐらいだろうか。
という人物は噂に聞いても本人はみない。なんて言う官吏もいるぐらいだ。
珮玉も普通につけているのにこんな噂がたつのはの影が薄いのかと落ち込んでいた時期もあった。

歩いていても頭を下げられることはほとんどなくそれを特別咎めようとは思っていなかった。
自身自分に頭を下げる時間があるなら仕事をして欲しい。

その日の仕事量は帰れるような量ではなかったので間に仮眠を挟んで再び再開すると人の声が聞こえる。
普通こんな夜は静かなのだが後宮の方がざわざわしている。

嫌な予感がする。何かに巻き込まれるようなそんな予感。

その予感が外れるように思いながら王から花を貰った友人2人を思い出す。
絳攸は良いとしても、あの考えなしの楸瑛に頭が痛くなったのは記憶に新しい。
人伝に彼らが貰った花を聞いて溜息をついたのも記憶に新しい。

期間限定の後宮の花は王に愛されているらしいことが良くわかったが、あの子供王は我侭なわりに頭の回転が速くて困る。
ただの我侭ならもすぐに彼に見切りがつけれた。
なのに彼はどういった意味かまでは直接の関わりのあるには分からないが、貴妃を気に入っているらしく
そのせいで貴妃が危険に陥るようなことになった。
勝手に押し付けたれた貴妃だからと不満を持ってその貴妃に興味がないなら貴妃は紅家に守られて終わっていたのだ。


分かりやすい花の意味、それを受け取った私の友人、頭の回転の速い子供王、一度だが出会ってしまった後宮の花。


溜息をついてしまう。
何も気がつかなかったふりだって今ならできる。
誰にも気がつかれないように外に出て家に帰って眠ることもできる。
誰かがここに来る前に行動をおこせば何にも関わらず終わる。
後で葵長官に聞きに言ったら嘘ではないが真実でもない情報ぐらいはくれるだろう。
友人2人は話してくれないだろうし、王から聞くのも1つの手だが彼とはあまり接触したくない。
後は清雅さんかな?でも、清雅さんに聞いたらここぞとばかりに嫌味言われそうだし嫌だ。
やっぱり長官が一番安全牌だな。

思い立ったが吉日とは誰にも見つからないように侍郎室をでた。
もちろん、家に帰って寝るためである。仕事は明日早く来てやってしまおう。
………だが目の前に清雅がいた。



「お久しぶりです清雅さん」



内心の動揺とちょっとした悪態を隠しながら笑顔で言うと清雅はふふんと不敵に笑った。
一応、私のほうが先輩なんですけど。なんて言わない。



「また逃げるのか」

「またとはなんですかまたとは」

「この件に関わらず逃げようとしていただろ」

「清雅さんいつも言いますが私は年上なんですよ。
 それに貴方より現在の地位は高いんですから口調を改めなさい」

「お前が言ったんだろ。猫被ってるぐらいなら普通になさいと」

「おや?そうでしたか」



心底不思議そうにが言うと清雅は呆れたように溜息をついた。
若干頭が痛そうである。



「お前はいつもいつも自分の都合の悪いことは忘れたふりをするのは止めたほうがいいと思うぞ」

「そうですね。それではご忠告ありがとうございます。では、失礼」

「逃げるな」



清雅の横をすり抜けようとしたのだが阻まれてしまった。
阻まれたのでとりあえず侍郎室に戻って仕事を再開するか、と考え戻ろうとするとこれも阻まれた。
清雅を睨むだが清雅はそんな視線をものともせずに言う。



「一応聞く、今回の事にお前は関わってるのか?」

「直球ですね」

「お前に直球以外で聞いたら変な回答しか言うないからな」

「関わってるんだったら私は今日の仕事はここでなく家に持ち帰ってやっていますよ。めんどくさい」



どうやら清雅に疑われていたらしい。
どこをどうしたら今後宮で起こっていることに関わっていると思うのか問いただしたい。
だが、いまこの場では清雅からの開放が一番の目標だ。清雅はしつこいから。
納得したのか納得してないのか分からないが清雅はじゃあなと言って立ち去った。

昔から清雅さんは何も言わない子ですね。

思わず溜息が出る。
清雅との付き合いも5年ぐらいになるのだがあまり変わらない。
彼のことは結構気に入ってるのでちょっと寂しい。
それに、今回の事に自分が関わっていると思われたのも釈だ。
侍郎室に戻ったは椅子に座って仕事をはじめるために書簡を広げた。



「いるだろ。今回の事はお前だな」



部屋の中で誰もいないのにが言うとすぐにの前に何者かが現れた。
は驚いたそぶりを見せず仕事を続けている。



「申し訳ございません」

「謝罪はいらないよ。私のためにやったことだろうしね。
 でも、報告は欲しかったかな。清雅さん今回の事でちょっとぴりぴりしてたしね。
 今回のことで御史台に引張られるのはまだ嫌なんだ」

「………」

「お前も知ってるだろ?
 尚書の事はまだ時期じゃないから泳がせとかないといけない。
 もっと上手い具合にハゲ尚書を落とせる時期がかならず来るんだ。
 御史台ではまだ私が礼部の担当になっているから清雅さんも完全には手を伸ばせないから良いものの、
 私が葵長官に切られるようだったら明日には私は礼部にいなくなっているだろうね」

「………」

「ひとり言だ気にするなよ。
 それに、お前は良くやってくれているよ。さ、戻りなさい」



が言うとそれまでの目の前にいた人物が消える。
区切りのよい所まで仕事を終わらせると再び溜息をついた。



「あれも口下手なところを直してくれれば清雅さんも混乱しなかったろうに」



昔からあれは口下手だったし今更直せというのが無理な相談なのだろうか。
窓の外をみると後宮から聞こえるざわめきはいつの間にかおさまっていた。
一応、関わらずにすんだかな。



「それにしても、一般人には朝廷は荷が重過ぎるよ……」



実家に帰って農作業したい。
せめて絶対に次の休暇には田んぼ行って玉ねぎの菜食べるんだ!




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