「なんで私が……」



時折、イジメのような出張命令が来るのは諦めていた。
だが、しかし、なんで国試の時期に紫州から藍州までの旅を強いられ、
なおかつ、藍州の州牧ならびに藍家現当主に挨拶――別名、ご機嫌伺い――なんてお使いを頼まれなければならないのだ!!

私にとって侍郎になってからはじめての国試。
それはそれは、楽しみにしていたのに!!!!
いや、藍州に行くのもはじめてだから嬉しいけどもだ。

藍州に行くのは仕事だ。仕方がない。
私が行かなくても誰かが行けばいいような仕事内容なのになんで、
侍郎が行くんだという突っ込みはそのお使い部分に当たるのだ。


そう、かのハゲ尚書からのお願いと言う名のお使い………。


内心ではハゲだとか無能だとか罵っていても相手は尚書。
一応上司。上司の命令は絶対です。
何とか、もう1人の侍郎に押し付けてやろうかとしたんですがのらりくらりとかわされました。


そして、目の前に居るのは藍家の三つ子当主様です。
やはり藍家です。煌びやかな衣装を纏っていらっしゃいます。
ですがね、ここは私が宛がわれた室でして、どうして当主様方がいらっしゃるのでしょうか?



「私達を見て固まってるよ」

「失礼だ」

「まあまあ、彼は一応楸瑛の友人らしいから」

「それが気にくわない」



最後の一番右側に居た三つ子の一人の発言に三つ子は同時に頷いた。
見ているだけならば三つ子は煌びやかで目の保養になる。
は三つ子の発言にはっとして礼をとった。



「お初にお目にかかります。
 現在、礼部の侍郎を任されておりますと申します。
 恐れながらお聞きいたしますが、私の宛がわれた室にどうして御三方が?」

「頭をあげなよ」

「そうそう」

「月、花少し黙ってて」

「「はいはい」」



の脳内には昔、酒の肴に話された三つ子の情報を引き出していた。
楸瑛曰く、藍家当主・藍雪那は三人いる。
楸瑛曰く、三人を別けて呼ぶときは雪、月、花、と呼んでいる。
楸瑛曰く、ものすごくたちの悪いイイ性格しているらしい。



「私たちは藍雪那、現藍家の当主。君に頼みがあるんだ」

「何を、でしょうか?」



真中に居る雪那の口調は優しげだが、何を考えているか分からない表情をしている。
いや、表情自体は柔らかく微笑んでいるようなのだがその笑みはこちらを卑下しているように見える。
一見しただけでは分からないが、微笑みの下に確実にこちらを馬鹿にし、
藍に逆らわないだろう民草としてこちらを扱っている。
一応、侍郎職についてはいるが家はほぼ一般市民だ。下級も下級の貧乏貴族だ。
国試制がなければだって官吏になれなかったし、ここまで出世できなかっただろう。



「君、邪魔だから楸瑛に関わらないでくれない?」



言外に、断るわけないよね。と、含ませて。



「私たちから楸瑛に言うのでもいいんだけど、楸瑛をあまり傷つけたくないし」



無邪気に、残酷に、当たり前のように。



「君から勝手に離れていくなら、大丈夫かなって」



発言していない2人は薄く笑ってこちらを伺っている。



「返事は?」



自分たちに服従するのが当たり前のように、彼等は綺麗に笑った。
その笑みは絶対強者の笑み、その笑みは悲しみの笑み、
その笑みは強情な笑み、その笑みは強欲な笑み、その笑みは涙の笑み。

は流されて生きてきた、その中で1つだけ逆らったのが国試を受けること。
逆らって、手に入れたのは面白い人たちとの関係。
もしかしたら、逆らったと思った国試受験も誰かの手のひらの上でのことでも、
彼等との関係は確かなものだから、流されて、流されて、たどり着いた場所ならそれでもいい。



「貴方たち馬鹿ですか?
 弟の交友関係にまで手を出すって、まあ、藍家ぐらいになると仕方ないのかもしれませんが、
 私から彼との関係を切るつもりはありませんよ。
 楸瑛とても面白いですし、それに、もし、彼が私との関係を無かったことにしても私は彼に付き纏います。
 例え、藍家に閉じこもってもどんな手を使ってでも藍家の扉こじ開けて正々堂々正面から藍家に入ります。
 私は確かに、力はありません。権力さえ持ってない。持ってないから私は捨て身になれる。
 貴方たちみたいに沢山抱えているわけではないですからね」



一気に言い三人を見る。
三人は驚いた表情だ。よく見ると少しずつ表情が違うのは彼等の性格の差だろうか。
はじめに、から見て左の雪那が言った。



「彼、おもしろいね」



困ったように笑って左の雪那が言ったあと、右の雪那がイラついたように腕を組みなおした。
真中の雪那――たぶん、雪と呼ばれる雪那――は楽しそうにしていた。

そんな三つ子の様子を見ている内に、冷静になったは思った。
あ、私死ぬな。藍家の当主馬鹿にしちゃったよ。首が胴体から離れるよ。
人生短かったなぁ。まだまだ、やりたいこともなくもなかったのになぁ。

が自分の人生を走馬灯のように思い出していると三つ子が三人揃っていった。



「「「ねぇ、君の名前は?」」」

「…………名乗りませんでしたっけ」



最終的にはまた名乗ったのだが、
その時思ったのは自分はどこまでいってもヘタレてるんだろうなぁという確信にも似た予感。








勝手な三つ子解釈

雪  楽しそうなものが好き(まあ、三人とも楽しいもの好きだけどネ)
月  独占欲が3人の中で一番強い(まあ、三人とも強いけどネ)
花  3人の中で一番優しい(まあ、三人とも鬼畜だけどネ)

三人とも兄弟好きで、雪月花は三人が世界で唯一の対等者だと思ってるといいなぁ
邵可は対等というか、甘えられる厳しく強い人

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