噂で聞いていた。
たしか、紅家から直系のお姫様が貴妃として後宮にはいるとか。



「私に関係ないじゃないですか。
 私には私の仕事があるんですよ。貴方達みたいに左遷された訳ではないのですから」



仕事に使う資料を返しに来たを絳攸と楸瑛が捕まえた。
今はそれほど仕事が溜まっている訳ではないので黙って捕まっては見たが、
一応、何かいってやろうと意趣返しをしてみた。



「左遷じゃない!!
 主上付きになっただけだ!!!」

「へぇ〜〜
 では、今暇そうに本を読んでるのは吏部侍郎なのですよね?
 私が吏部に書類を持って行った時は吏部は相変わらずの状況でしたが」

「うっ」



鼻で笑うような声色でいうに絳攸は反論できず押し黙った。



「こらこら、は絳攸をあまり虐めてあげないでやってくれないか?」

「そうだった。絳攸を虐めるのは楸瑛の役目だった」

「そうゆう問題じゃないだろ!!」



絳攸が叫ぶがその言葉も相手にせずに楸瑛とはくすくすと笑うのだった。
そうなってはこれ以上何も言われないために絳攸は目を本に戻した。



「で、どうして私を府庫に押しとどめたんだ?」

「そうだね。………どうしてか分かってるだろ?」

「楸瑛、質問を質問で返すな」



が言うとごめんごめんと平謝りする楸瑛。



「だが、お前が俺達が聞きたいことを知っているのは事実だろう」



絳攸が言うとは諦めたように絳攸の目の前の椅子に座る。
絳攸と楸瑛は話す気になったかと、の言葉を待つように黙る。
だが、は特に何も言わず近くにあった茶器でお茶を入れるだけだった。

は2人が睨むように自分を見てるのを知っているが面倒だななんて考えて口を開いた。



「えっと、なんで私だけが『霄太師の要請を拒否できたか』が論点?」

「それ以外何があるというんだ!!!」

「それ以外もあるけど………聞きたい?」



もったえつけたように言う
それに絳攸は怒鳴るが、それを軽く流しす。
その様子に楸瑛はくすくすと笑うが、
まだ言い合っている2人――実際は絳攸がおちょくられている――に声をかけた。



「で、どうしてあの霄太師の要請を拒否できたんだい?
 君も主上付きになれって霄太師に言われたってきいたけど、実際は今迄の通り礼部侍郎の仕事をしているだけだし」

「あ〜〜。
 ………聞きたいの本当に?」



そういいながらチラリと絳攸を見る。
絳攸は何故、自分が見れれたか分からず首を傾げる。



「……まあ、楸瑛は笑うだけだとしても、絳攸お願いだから怒鳴らないでね?」



いつもはどこか自分に大して偉そうな態度を取るが――実際はおちょくっているだけだが――
今回は自分の顔色をうかがうようにしている。
どこか、嫌な予感がしながらも理由は知りたいので絳攸は一応怒鳴らないと言うと
はどこか胡散臭げにこちらを見たが、仕方ないように話し始めた。



「これは数日前のお話です。
 突然、霄太師に呼ばれたは仕方なしに霄太師の元に行きました。
 霄太師の待っている室に入るなり、挨拶もさせてもらえずとりあえず席をすすめられました。
 なんだか怪しいというか、何か無理難題でも押し付けられるような気がふつふつと湧いてきました私。
 まあ、とりあえず相手の出方も見ないといけないので軽く挨拶をした私に霄太師は言いました。

 『さっそく本題じゃがの、お主は明日から主上付きになってもらう』
 『主上付きですか…』
 『なんら不満でもあるのかの?』
 『いえいえ、不満なんて滅相もない。光栄すぎて感極まっていたのですよ』
『では、明日から』
 『主上は男色家なんですよね。
 しかも、年下ですしこれは天の巡り合せとしか言い用がない。
  大丈夫です霄太師、私かならずや貴方の希望にそったように主上を調教いたしますよ。
  もちろん、性的な意味合いで』

 霄太師は一瞬きょとんとなさいましたが、慌てたように私の言葉を否定してかかろうとしました。

 『いや〜〜。まさか、朝廷三師である方がそういった趣味があるなんて考えても見ませんでした』
 『普通に政の補佐として』
 『霄太師もお好きですねぇ』
 『政の補佐として』
 『だから、奥方がおられなかったんですね。納得です』
 『補佐として…』
 『しかも、王様も手玉にとろうとするなんてさすが霄太師』
 『………。もうええわい。早く礼部に帰れ』
 『それでは、失礼いたします』

 それから、霄太師からも誰からも主上付きの話は流れませんでしたとさ」



めでたしめでたし。
そう言葉をしめると絳攸は唖然とした風にを見ていた。
楸瑛は笑いをこらえているのか、肩を震わせている。

意識が戻った絳攸が声にならない怒りの叫び声を出して、
が『だから言ったのに…』とぼやくまであと数秒であった。




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