は劉輝が王位にたってから、礼部侍郎になった。 その数年前から、礼部には在籍はしていた。 だが、彼がその前までいた部署について知っている人間は少ない。 「礼部侍郎」 が資料を探すべく府庫に向かっていると後ろから声がかかった。 声色から誰か分かったのだが、あえてかなりゆったりと振り返る。 それがわざとだと分かっている相手は躊躇いもせずに溜息を深くついた。 「お久しぶりです。葵長官」 相手の溜息を無視して上官に対する礼をとる。 ゆっくりと一見優雅だが彼の本質を知る人間にとっては少し嫌味な対応だった。 それを知っていた、御史大夫の葵皇毅は礼をしている途中のの腕を掴んで無理やり顔を自分の方へ向けさせた。 その対応にはやや驚いたが、葵長官だし。と、内心で考えた後彼に向かって微笑んだ。 「礼部侍郎」 「なんでしょうか?」 「そろそろ、帰ってこい」 「どこへでしょうか? 一応、仕事が終われば毎日家には帰っているのですが」 まだ、腕を掴んでいる腕を気にしていないようににこにこと笑みながら答える。 元々厳しい面の皇毅はその内心を隠そうともせずに表情をさらに不機嫌な方向に向けていた。 唯一の救いは、ここがあまり人の通らないので有名な場所であったことだ。 たとえ、御史大夫が自分よりも下官である侍郎の腕を掴みながら(第三者が見ると)睨んでいようと、 それに対して侍郎が何も言わず微笑んでいようと、それは今この2人しか知りえないことなのである。 「御史台へ帰って来い」 「人手が足りないのはどこの部署もどっこいどっこいですよ。 それに、我が礼部は最近尚書が変わったばかりなので体制が整っていませんので無理です」 「………元々お前は御史台の物だ。 早く帰ってこないと、お前のお気に入りが心配しているぞ」 「陸清雅のことですか? 清雅さんは私の心配をするような人間ではないでしょ。 逆に私がいないので私の分の仕事をやって『出世したいから帰ってくるなよお前』 とか、考えているでしょうから大丈夫ですよ。 ですから、そろそろ腕を離してくださいまし」 がいいながら緩やかに自分の腕を掴んでいる皇毅の手に触れる。 皇毅は渋々ながら手を離してやり、を見る。 「それに、私は帰るつもりはありませんよ」 「どうしたら帰ってくる」 皇毅の言葉には瞳を見開き皇毅を凝視した。 「葵長官がお願いなんて珍しい」 「それだけお前が欲しいという事だ」 「それは、光栄ですね」 首をすくめて言う。 そんなことを思ってもいないだろうと考える皇毅は諦め気味に問うた。 「条件をいえ」 「そうですね。 朝廷内の普通になってしまった異常を取り除いてくだされば考えます」 「そうか」 「そういえば、葵長官」 「なんだ?」 「土筆はお好きですか?」 にこりと幸せそうに問うに皇毅は呆れたように溜息をついたのだった。 |