今はもう礼部に魯官吏が尚書職についている。
だが、彼が礼部尚書になっていなかった時もは礼部侍郎の職に就いていた。

侍郎室で自分の仕事が一区切りついたは一つ小さな伸びをした。
処理したものの中で、他の部署に持っていかなければいけないものと
尚書に処理してもらうものを分けておく。

尚書が処理しなければいけないものを手に持って尚書室の扉を開ける。
尚書室には一応仕事をしている風を装っている蔡尚書の机に書簡を置く。



「こちらが、尚書が処理しなければならない書簡です」



そういいながら少しぎこちなく礼をとる。
顔をあげると優越感に浸っているような様子を瞳に写している蔡尚書がいた。



「まだ、礼がぎこちないようですな」

「はい。
 ですが、礼部の皆様のおかげで最初の頃より大分ましになってきているようで
 礼部の皆様にはとても感謝しております。
 私のような若輩者が、侍郎職についているのが不思議なぐらい知恵者な方々ばかりの礼部で働けて私は幸せ者です」



蔡尚書は満足そうに頷き『もっと精進するのですぞ』といい退室を促した。
は尚書室を退室し、侍郎室に入る。
侍郎室の自分の机の上には各部署に持って行く資料がある。
それを手に取り礼部官吏が仕事をしている室に向かった。

室の中には礼部官吏たちが仕事をしていたり、話していたりした。
その様子に溜息を内心でつきながらはニコリと微笑みを顔に貼り付けて発言した。



「すいません。
 これから、各部署に届ける書簡があるのですが皆様方にそういった書簡があればかわりにお届けしますが」

「いつも悪いな〜」

「これよろしくお願いします」

「いえいえ、いつもの事ですし気にしないで下さい。
 何度か往復するつもりなので、とりあえず工部と兵部あたりの書簡だけお願いします」



手に多くの書簡を持ち廊下を歩く
に対して礼をとる官吏は少なく、それに対してもなんら気にしないで歩いていた。
庶民から侍郎まで上り詰めたを良く思っている人間は少ない。
上司がを軽んじているのを見て部下もそれに習っているのだ。
が注意しないのもそれを増幅させる原因の1つでもあるのだが、
普段から道を歩くだけで礼をされるのは元々嫌いな性格なは、
正規の場での立ち振る舞いさえしっかりとしてくれれば構わないのであった。



「失礼します。礼部侍郎、ですが礼部から工部への書簡を持ってまいりました」



工部に着くと工部の比較的若手官吏が申し訳なさそうに書簡を受け取ってくれた。
少しお酒臭いのは工部での仕様なのでしかたない。
退室しようとすると、尚書室から怒鳴り声のような大きな音が聞こえてきた。
は諦めたように溜息をつくと、いつも書簡を受け取ってくれる工部官吏が尚書室まで案内してくれた。



「いつもいつもいつも!!
 なんで、てめぇは俺のところを無視して出て行こうとするんだ!!」

「煩いですよ!!
 でも、一理あるんですよ侍郎」



尚書室に入ると、が礼をするのを防ぐような形で話しかけてくる工部尚書・管 飛翔に工部侍郎・欧 陽玉。
礼をする時機を逃がしたはとりあえず手に持っているほかの部署への書簡を持ち直した。
2人はに話しかけていたはずなのにいつの間にか2人は勝手に口喧嘩をしている。

溜息をつき手に持っている書簡を適当な場所に置き、辺りに散らばっている酒瓶の1つを手に取り2人の前に勢い良く置く。
飛翔は驚いた後嬉しそうに、欧陽侍郎は驚いた後嫌そうな顔になった。
その表情を見てニヤリと礼部に居た時とは違うどこか悪戯を思いつたような微笑を浮かべたは言った。



「中に酒は入っているか入ってないか!!」

「入ってる!!」

「入ってないんじゃないんですか?」

「欧陽侍郎お見事。入ってませんよ」



飛翔は舌打ちをして欧陽侍郎をみた。
欧陽侍郎は勝ち誇ったように鼻を鳴らした。



「では、これは決定と言うことで」

「くそぉぉぉぉ」

「で、私への用件は?」



が言うと工部の2人は不思議そうに首を傾げて。



「「なんだったけか?/なんでしたっけ?」」

「………もう、いいです」






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