「今年から女人が国試を受けれるようになる」 「へぇ〜〜そうなんですか魯官吏」 自分の仕事を片付けながら興味ないように呟く。 これでも、一応礼部侍郎である。 本人は今の地位に不満があるらしく、いつでも降格する覚悟は出来ていた。 侍郎なんて自分には袈裟が大きすぎる。 彼は仕事の関係で国試が終わるギリギリまで藍州にいたので、 噂には聞いていたが本当だったのだね…、ぐらいにしか考えていなかった。 「……侍郎」 「はい、なんでしょう?」 魯官吏の方に向き直る。 魯官吏は1つ浅い溜息をついた。 「朝議にて聞いたのではないのか?」 「蔡尚書は私よりもう1人の侍郎が好きなんですよ。 だから、私は朝議あまりでませんし。侍郎って基本朝議にはでれませんし。それに、蔡尚書より魯官吏の方が好きだし」 「好き嫌いの問題ではない」 「まあ、そうなんですがね」 軽く首をすくめて同意をする。 仕事の量は吏部と戸部と比べたら少ない方らしい。 まあ、吏部も戸部も配属されたことないからわからないがね。 「…今年は上位二十名は一時朝廷預りになる」 「私の時と同じですね。どんな人たちが来るか楽しみですね魯官吏」 「私の手伝いをしなさい」 「御意に……って、私貴方の上司なんですけど」 の呟きに魯官吏は小さく笑っただけで返した。 実際、としては彼に支持して礼部にいるようなものなので異論は無かった。 彼の頼みなら大抵のことは引き受けてしまうだろう。 ああ、でも、やっぱり少しだけ釈然としないのは、 そこまで高くない矜持が疼いているからだろうか? 新進士達のいる室は少しざわめいていた。 まあ、仕方あるまい。例年いつもそうだし。 今年は、13歳で最年少及第した杜影月。 女人試験初の及第者紅秀麗がいるわけだし。 進士式をすっぽかした藍家の五男坊がいたらしいし。 がそう考えていると、ずいずいと蔡尚書は室に入っていった。 それに続くようにも歩いていく、その後ろに魯官吏だ。 「蔡礼部尚書、および侍郎、魯礼部官のおなりでございます」 下吏の声に、一斉に広間は静まり返った。 緊張しているのか空気が少し痛い。あぁ、若いっていいね。 そう考えて、頬が少し緩まる。まあ、若いたって同じくらいの年の人もいるんだけどね。 視線を感じてその先を見ると、魯官吏が見ていた。 いけないいけないと思い、頬を引き締めた。 「改めまして、国試及第のお祝いを申しあげます」 蔡尚書がにこやかに言う。 なんで、この人はこんなに外面だけは良くしようとするんだろう。カツラなのに。 「今年は主上の命により、あなたがた上位二十名は一時朝廷預りとなりました。 みなさんはこれから国の柱になるべき大切な方々です。 限られた期間ではありますが、この機会を生かし、少しでも多くを学んでいってください。 いずれ再び朝廷の中央宮でまみえることを心より願っております」 蔡尚書は後ろに控えると魯官吏を振り返る。 「さて、あなたがたの教導官をつとめるのは、この礼部侍郎と魯礼部官になります。 魯官吏はなんどもこういったことを経験しておられるかたですから、良く皆さんを導いて下さるでしょう。 侍郎は皆様と年齢も近いので良き相談相手になれると思います。 申し訳ありませんが、仕事が控えていますので私は失礼いたします。あとのことはお2人に」 蔡尚書に言われて魯官吏は短い言葉で応じる。 はしっかりと返事をした。 ぶっきらぼうな魯官吏に蔡尚書は困ったような顔をしながらも室をあとにした。 魯官吏はより一歩前にでた。 進士一同を見渡す。一人一人を値踏みするかのような視線を送る。 秀麗と影月に目を留めた瞬間、その眼光が鋭くなったのをは見た。 まあ、あれだけ官服が汚れていたら誰でも目につくだろう。 それに、話題の2人だしね。 「紅進士、杜進士。ずいぶん官服が汚れているようだが」 「あの・・・・」 影月が口を開くが、それをは被せる様に言った。 「言い訳はしなくていいですよ。 身だしなみがきちんとしていないのは事実です。 例え、貴方たちに何があろうとお2人は自覚が足りないのでは?」 「・・・・すみませんでした」 「侍郎の言うとおりだ。 ここを鶏小屋と勘違いしているのか?よろしい、あとでふさわしい仕事を割り振る」 魯官吏が2人から視線を外した。 2人は理由ぐらい聞いてくれてもいいのに、と思っているのだろうか少し不服気味だ。 「今年度の新進士上位二十名に関しては、配属が決まるまで礼部官である私の監督下に置かれる。 それぞれに仕事を割り振るのも私と侍郎の役目であり、私達は礼部官ではあるが参考になればと思い、 吏部にも逐一君たちの情報を書き送ることになっている」 吏部に情報を、その言葉に室内はざわめく。 ということは魯官吏との評価次第では今後の配属先や位に影響を及ぼす可能性があるというだ。 進士たちの空気が一瞬で変わったのが分かった。 いいなぁ。この空気。 はまた頬が緩むのが押さえきれなくなりそうだった。 「ですが、私はこういった措置の采配をとるのは初めてなので 魯官吏の補佐としているようなものですから、 私が侍郎であることは貴方達の指導官である間は大して貴方達には関係ないと考えてください」 「及第者の中でも上位にくい込んだ君たちは、将来この国の中枢を担う可能性が大きい。 今上陛下の御世初の進士であるという点でも、重要な存在になるであろう。 よって、例外的措置として配属前のふた月を城内で過ごしてもらうことになる。 官位はないが、様々な実務を任されるだろう。 そのなかで、自分たちが思ったことをひと月半後にはそれぞれまとめ、提出してもらう。 提出先は私や侍郎ではなくとも構わない。また連名でもよい。内容も形式も自由だ」 広間にざわめきが走ったがすぐに魯官吏によって静まる。 魯官吏のこういった態度を見ていると、自分が進士だったころを思い出す。 やっぱり、若いっていいな。 まあ、やっぱり同じくらいの年の人もいるのだが、そう考えても仕方がないだろう。 「また、毎朝卯の刻六つにこの室で朝礼を行い、仕事の内容と結果を確認する。わずかの遅れも許さぬ」 は懐から書翰を取り出した。 書翰には予め魯官吏と決めていた進士たちの配属先が書いある。 「では、配属先を言います。細かい仕事は各人配属先にて聞くように」 ここで、室に入って初めての笑顔を進士に向けてみた。 物凄く人の悪い笑顔だったと自覚している。 |