最近、不思議現象にも慣れを通り越して日常になり始めた俺(20歳になりました)だ。 皆さんは知っていると思うが、初体験(他人に憑依的な意味で)は高校3年生の春だった。 最初の頃は混乱しすぎで逆に落ち着いてたり、女の子になったことによる大混乱だったりがあった。 今では、誰かに憑依してもまたこれか程度だし、女の子になっても子持ちになっていても(最後の足掻きのような混乱はまだあるが)混乱はあまりない。 漫画やアニメの世界に行っていて(何故か普通のドラマや映画はない。ドラマや映画の世界だったとしても原作が小説たったり漫画だったりする) 正直言えば俺じゃなくて利之(中学からの友人、オタク属性)が行けば良かったんだ。 さて、これは俺が大学の合格発表の日の話。 パソコンで自分の受験番号を打ってエンターを押した時の事だ。 (……せめて合格か不合格かぐらいは知りたかった) 只今、全身ずぶ濡れ状態である。現在進行形で水溜のような井戸のような場所に入っているのでそこから這い出る。 今回は少女らしい。 だが、ボーイッシュな女性なのかショートブーツにズボンハイネックの上にシャツを着てもこもこ羽毛ベストという明らかに冬仕様の格好。 意図的に無視していたが周りの人間はこちらに分からない言葉を発している。 久しぶりにキャラクターが言葉を理解してない世界についてしまった。 それに、まわりの人たちは布を一枚を上手く着こなしているような格好である。 民俗学なんて普通の高校生だった俺が修めているいるわけなく、とりあえず日本ではないことだけは周りの町の建物で分かる。 周りの人間がこちらに向かって何か言ってるが分からないのでとりあえず体が動くままに走ってみた。 どうやら、この少女はこういったことに慣れていない普通の人間だと言うことはわかった。 走っていると階段を見つけたので登ってみる。 どうやら敵が簡単に侵入できないように作られている城壁。 そこから町を一望すると明らかに日本史では見なかった赤茶色の家。 とりあえず行動規制(勝手に体が動くので変なかんじだ)のまま叫ぶ。 人間とは進化する生物である。最近では行動規制も多少制御できるようになってきた。 「どこなのーーっっ!!ここはーーっっ!!」 ははは、目立つぞ少女よ。 初めての異世界トリップはさぞかし混乱の渦だろう。俺は慣れた。 暫くぼーっと町並みを見ていると、何かを言いながら槍のような物を持った兵士のような人間たちがこちらに向かってきた。 明らかに友好的ではないのでとりあえず逃げる。 逃げる途中で思い出しのだが、俺はこの世界に呼ばれたらしい。水に引きずりこまれたら知らない場所だった。 水に引きずり込まれる前はデート中だったのだ。可哀相な少女である。 逃げ回っていると前からも兵が来たのでわき道に入ると誰かが立っていた。 顔を隠すようにしているその人それを外し顔を見せる。突然の訪問者に声をかけているが、俺は言葉が分からない。 男だったその人物は顔がとてつもなく良かった。 さすが、どこかの漫画かアニメかゲームか小説の世界である。 後ろから兵士が向かってくる音がする。 舌打ちを1つし、戦えるだけ戦ってみようと音の方向に体を向けると反対側から腕を引張られた。 突然の事に対処が出来ずされるままにクチビルヲフサガレタ。 クチビルをふさがれた 唇をふさがれた 一体何で塞がれたのジョン oh〜、もちろん唇を塞いでいるのは唇さぁ ようするにキッスをしているのさキッスを 脳内でジョンと誰かが話している。 ちょっと、待て。おい。舌を入れてくるな。 何気に腕を引張られる勢いで押し倒されている。背中が痛い。 これだから色男は嫌いなんだっ!! 世界の女全ては自分の思い通りになると思ってる人種なんだっ!! 少女にとっては初めてではないが慣れていないらしく目から涙が出てきた。 これは、恐怖・戸惑い・混乱のためだ。 思い切って相手の舌を噛んでやろうとするとそれが分かったのか、兵士が声をかけてきたからか唇を離された。 「おい!こっちに娘がきただろう。どっちに逃げた?」 「むすめ? さぁて、気がつかなかったかな。女性と一緒のときは他の女性は目に入らないんでね」 こんどは口を手で塞がれた。 ……言葉が分かるようになっている。さっき、キスされたからか?ありえねぇ。 ファーストキスから弾けたときめく僕のワンダーランドかよ。 ときめいてないし、ファーストキスじゃないし。ワンダーランドではあるが。 それにしても、こいつ俺を庇ってるのか?マントのような物で俺を隠している。普通すぐに兵士に突き出すだろこんな不審人物。 色男は上体を起こした状態で兵士たちを見ている。 「こ…これはカイルさま!」 「カイルさまがなぜこのような場所に…?」 「あの…わたしどもは娘を……」 「妙な服装の娘がこちらへ来たはずなのですが……」 焦ったような兵士たちの声。 色男はお偉いさんらしい。これで王子様だったら今回の憑依体は主人公クラスだな。ハハハ、笑えねぇ。 「だから知らんと言っただろう。やっと口説き落とした女性といいところなんだから、邪魔するなよ」 不機嫌そうな声色でいう色男。完全に庇われているらしい。 結構良いやつじゃないか色男!! 言葉も分かるようになったしキスは水に流すぞ色男!! 俺の体が目的だったらアレを潰すぞ色男!! 「失せろ!!」 「ははっっ!」 全ての兵がいなくなったころには口を塞いでいた手も外され冷ややかな瞳でこちらを見ている色男。 良い奴だが突然女を襲う人間の割には常識があるらしい。 「たしかに妙な格好だな。どこの国のものだ? 何をして皇妃の私兵に追われるようなことになったんだ?」 こういう時はある程度現状を話すに限る。 一度俺を庇ったんだから多少は良い奴か腹に一物持ってるような奴だろうしな。 俺が口を開こうとすると体が震えていることに驚いた。 やはり普通の女の子という事か、先ほどまでの出来事は怖かったらしい。 「貴方様には信じられない話かもしれませんが私が話すことは全て真実です。 私はこの地の人間ではありません。 数日前から、水に引きずり込まれるという現象が起きており水辺には注意していたのですが雪が降った次の日だったので 雪解け水の水たまりに引きずりこまれてしまいました。 どこか、井戸のような場所にでて混乱していた私を手に武器を持っている男たちが追ってきたので 逃げていたら貴方様がいる場所にでて今に至ります」 「そうか……では、お前は自分が追われていたことは知らなかったのだな?」 「はい。ただ、水に引きずり込まれた時に女性の声で『捕まえた』と言われました」 俺がそういうと色男は何か考えはじめた。 俺は体の震えを静めるために正座をし目を閉じて深く呼吸を繰り返した。 何度か繰り返し、震えが止まったので目をあけるときょとんとしたようにこちらを見ている色男。 目が合うと悪戯を思いついたような表情の色男。 「もしかして、さっきのを怒っているのか? 中途半端が不満なら最後までつきあおうか?ちょうどわたしも約束の女性にすっぽかされてね」 手を伸ばされたのでぱしりと手をはじく。 冗談だろうがさっきまで震えていた少女にかける言葉じゃねぇだろ。 緊張解れねぇよ。震え再発しちゃうよ。 「すっぽかされた穴に入るほど私は安くない。 助けていただいたのは感謝するがこれで失礼する」 そして色男から逃げると兵士に捕まったとさ。 適当に冗談にのってから保護してもらえばよかったかも。 捕まった後、手を縛られて牢屋のような場所に入れられると思い出した。 あれ? よく考えたらこれ昔姉貴の持ってた少女漫画じゃないか? タイトルは確か『天は赤い河のほとり』で、主人公は皇妃に召喚された少女で鈴木夕梨。 そう、俺はユーリだったのです。 ……主人公とか笑えねぇ。相手役にヤられる的な意味で。 |